THE CLUBでは、カリフォルニア出身のアーティストJohn Zurierの個展「青ぞらのはてのはて」を開催いたします。
一〇七四 〔青ぞらのはてのはて〕
一九二七、六、一二、
青ぞらのはてのはて
水素さへあまりに稀薄な気圏の上に
「わたくしは世界一切である
世界は移ろふ青い夢の影である」
などこのやうなことすらも
あまりに重くて考へられぬ
永久で透明な生物の群が棲む
宮沢賢治(1986).「宮沢賢治集全集2」ちくま文庫、筑摩書房
John Zurierはモノクロームの抽象的なコンポジションによる絵画作品を1980年代から制作しています。Zurierの作品は、油絵具による不透明の層と半透明の層が交互に重なり合う豊かな色彩によって構成されています。各々の作品の完成形は、顔料そのものが持つ色合いや透明度に導かれています。そこには、ペインティングの過程に対するZurierの深い関心と、色彩、光、空間への感受性が反映されています。
宮沢賢治の詩「青ぞらのはてのはて」を引用した本展のタイトルについて、Zurierはこう語ります。
「Night Paintingsシリーズの制作中、私は宮沢賢治の詩を読んでいました。私が特に魅力を感じるのは、彼の自然と色彩に対する感性です。とりわけ今回の展示のタイトルとなったこの詩に顕著なように、彼は地に足をつけながらも超自然的な抒情性を持っています。この詩の奥底に表現されているのは、形なきものと移ろいゆくものです。私の思考はさまざまな物の色彩と表面に向かうことがほとんどですが、ペインティングにおいて私が追及しているものはある種の儚さです。私にとって抽象画とは、物質的な存在であると同時に、青ぞらのはてのはてへと旅立つための手段でもあるのです。」
Zurierは日本の美学にも深い影響を受けています。
「私は高校生のときに日本庭園についての本を読むようになり、それがバークレーで景観設計を学ぶことへとつながりました。とはいえ、私の日本庭園への関心のほとんどがその隠喩的な側面[見立て]にあるということ、そして、単純さ、仄めかし、不完全さ、質素さという日本的な美学の原理が私のペインティングの基礎となりうるものであったことに気付くまでには、随分と時間がかかりました。」
本展は Zurier にとってアジア初の個展であり、彼の 20 年にわたる制作活動から幅広く作品を展示いたします。Zurier の「青ぞら のはてのはて」への旅路をどうぞお楽しみください。
<アーティストプロフィール>
John Zurierは、 1956年にカリフォルニア州サンタモニカに誕生し、同州バークレーを拠点に生活している。カリフォルニア大学バークレー校にて、景観設計学の学士号とペインティングの美術学修士号を取得。2014年にバークレー美術館にて個展を開催。Zurierの作品は、サンフランシスコ近代美術館、ワシントン州にあるマイクロソフト社のアートコレクション、及びストックホルム近代美術館の常設コレクションとして所蔵されている。2010年にジョン・サイモン・グッゲンハイム奨学金に選出され、2002年ホイットニー・ビエンナーレ、2008年光州ビエンナーレ、2010年カリフォルニア・ビエンナーレ(オレンジ・ミュージアム・オブ・アートにて開催)、2012年サンパウロ・ビエンナーレに参加した。